一瞬の光

 

ピカルディ終止、というものがあります。

 

簡単に言うと、「曲の最後にいきなり明るくなって終わる」という作曲技法のこと。

それまでとは違う明るい景色をペイッ!と見せて説明なく去る。みたいな感じです。

例えばイ短調で曲が書かれている場合、「短調」なので、基本的に曲のイメージは暗く悲しげなんだけど、

その悲しげな曲の最後に奏でられる「ジャーン!」を、それまでのイ短調ではなく、「イ長調」に一瞬だけ差し替えることで、

曲の後味を希望めいたものにする。一瞬だけ光を見せる。

厳密には「イ短調」なら「イ長調」(同主調といいます)に転換される場合を指すのですが、

ボヤ~ンとした会話では、「短調長調になる」というだけでも「ピカルディっぽいね」となったりします。

 

こういった「一瞬だけ光を!」的な技法、いろいろな曲に使われているんだけど、

思えばジャニーズの楽曲ではあまり聴いたことがない気がする。

(※もちろんゼロではないと思う。絶対どっかにはあるでしょう。。)

何でだろう?と考えてみるのですが、、

ジャニーズの楽曲って、だいたい一曲の中で「物語」がかなり順調に完成する感じがします。

一曲の中で、全て手に入れる。友情・努力・勝利とか。(ジャ○プ的な)

たとえ0から始まったとしても、100の姿をしっかり見せつけて曲が終わる、

例えば「キミが好き」なら「大好き!!!!!」って盛り上がって終わる。

途中でどんどんテクニカルな転調を挟んできますが、それは「好き!」を意識的に加速させるためのものであることがほとんどで、

その結末には疑いとか、悔いとか、あるいは思いもよらぬ新展開とかは、あんまりないような。

まあ、もしそうだとすると、「ピカルディ終止」のような技法って、そこまで要らないんですよね。

だってもう別に、思い残すところないわけで。

その後の展開はもう、見えてるわけで。。

最後の一音でわざわざ違う展開を残すとか、完成した空気を台無しにするだけです。

 

そんなことをボンヤリと考えていたんですが、

ピカルディ終止っぽいことやってる人たち、他のところに、

いるね。。。

 

 

三代目J SOUL BROTHERSさんの「RAISE THE FLAG」。


三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE / RAISE THE FLAG(Music Video)

 

youtubeだと最後まで聞けません。。。

ぜひ、サブスクなどで再生してみてください。

てか、これは厳密にはピカルディ終止じゃないのですが(ちゃんと該当するやつ探して来いって話ですがw)

 

終始、短調(Dm=二短調)で進みつつ、

途中ちょっと使うスケール(音階)が変わって、テンションコード(※特殊な和音のこと)など出てきて、オヤッとなるのですが、でもやっぱりずっと二短調で、

このまま終わるかな~、と思いきや、最後の最後、

 

時間05:28~「Oh~~Yeah~~」後の 《ホワホワホワ~ン♪》

 

で、おそらくAaug(ラ・ド♯・ファ)、長調を匂わす感じになってます。和音の中で最後までエコーが一番長く残るのもA(ラ)。

しかもこのA(ラ)というのは、この曲・二短調(Dm)の主音(※基本となる音)であるD(レ)の完全5度、

完全5度というのは、まあ「D(レ)=家、としたとき、A(ラ)は家からの距離が5歩だよ」、くらいの理解でOKなのですが、

5歩というのが重要でして、

「家から5歩」というのは、基本的な進行において、「めちゃめちゃ家に帰りたくなる場所」なんです。

つまりめちゃめちゃ戻りたい=めちゃめちゃ不安、な場所ってことです。

この曲は「長調の予感(Aaug=メジャーキーを含む)の音」でありながら、同時に「めちゃめちゃ不安な位置の音」で、敢えて終わってる。

不安だね~不安だね~(泣)・・・でもキラキラ~!ってことです。情緒不安定?

(※ほんでもっと言うと、Aaugの「aug(オーギュメント)」ってのは、A(メジャーキー=明るい)を、不安要素たっぷりにしろ~!というような指示です。めんどくさいので割愛します。)

 

 

もうひとつ、

BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBEさんの「ANTI-HERO'S」という曲。


BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE / 「ANTI-HERO'S」 Music Video

 

 

この曲もラスト聴けない・・・

こちらもサブスクなどでご確認ください。

全体として短調(Gm=ト短調)と長調(B♭=変ロ長調)〔これらはどちらも譜面上で♭2個です。転調が譜面上にあまりクッキリ出ません〕が混ざり合っている曲。

楽曲の外観としては、短調のほうがかなり強めに出ている感じがします。

が、しかし、曲が終わる最後の最後、

 

時間03:44~ 《ピロピロピロピロン♪》

 

っていう音は、完全に長調になっているのわかるでしょうか。

このピロピロリン、和音としてはB♭メジャー(シ♭・レ・ファ)で、それが分散される形のアルペジオ

曲の調性はB♭マイナー(変ロ短調)ではない(=同主調ではない)ので、ピカルディ終止まではいかない。けれども、非常に似た感触があります。

これも「一瞬射す光」というやつです。

さらに、この最後のB♭は、それまでガンガンに鳴っているベースE♭の完全5度の位置。さっきの三代目さんのラストとかなり似ていて、不安の中にも希望がある、といった終わり方。

 

しかしこの曲、非常にスッキリしているようでいて、混沌としてます。

曲の調性としては、Aメロ~Bメロがト短調(Gm)、Bメロの最後に長調感が一瞬出てきて、サビが変ロ長調(B♭)、、

と言いたいんだけど、サビはどっちの調も入ってる。

一和音ずつのレベルで「これは長調っぽい」「これは短調っぽい」を交互に繰り返しています。

さらに言うと歌メロはト短調を継続している感が強く、しかしベースは変ロ長調どころか、変ホ長調(E♭)っぽい。(ハ?)

和音としてはどれもちゃんと形式を踏まえられているのですが、各パートのやってることの組み合わせを考えると結構な具沢山で、

これどう解釈するのが一番いいんですかね???と考えているところ(※案は限られてはいますが、私の頭では答えは出ません)。

 

なんでいきなり変ホ長調が出てくるかというと、、

ちょっと話がそれるのですが、めんどくさくなっちゃうかもしれない。。めんどくさい方は読み飛ばして下さい・・・

この曲「ANTI-HERO'S」(アンチヒーローの=アンチ英雄の)って名前の曲じゃないですか。

大昔、ベートーヴェンって人が書いた交響曲第3番「英雄(エロイカ)」(エロイカは伊語ですが英語で言うHeroic(英雄的な)です)って曲があって、その曲が、主として変ホ長調(E♭)なのですね。

ほんで、この「ANTI-HERO'S」、サビで循環しながら繰り返し出てくるベース音

 

E♭I'm gonna be the ANTI-HERO

F 《心燃やしてFire up》

G 《譲れぬ意志貫きLouder》 

(B♭ 《道なき道の先へRide out》)

 

の動き、これはベートーヴェン「英雄」で用いられる変ホ長調のキーとギリギリ一致するんです。

意識的なんですかね???とか思っちゃったりして、、考え過ぎ・・・?

 

この「ANTI-HERO'S」、Aメロにはちょっとなんか三味線を思わせる「テンテケテンテン♪」というフレーズ(フリジアンスケール〔特殊な音階のひとつ。スパニッシュな感じや日本的な雰囲気が出ます〕を使ってるのかな?)があったりして、そういうところも面白いです。

でも曲が終わるぞ、となって、ピロピロリン♪の後の少しの余韻をしっかり噛みしめると、後味は爽快というか、明るい。B♭メジャー。この音はそれまで強くのさばってたト短調(Gm)の余韻を、変ロ長調(B♭)に強く振り切る音。

こういう、一瞬の長調、というのは、最初から最後までず~っと長調、というのとは違って、

「アッッ!!今なんか違うもの見えた!!!」っていう効果があります。そしてすぐ消える。

流れ星みえた、みたいな。

 

 

さて、ピカルディ終止の例から話を始めましたが、

LDHさんの楽曲にはこの「一瞬だけ長調」とか、「一瞬だけ長調感を出す」というのが、ほんと、メチャクチャ多いです。

こういう曲の締め方をやっているというのは、やはりそういうモチベーションがある。ということに尽きてて、

それは歌詞の内容に深く関わってくるのですが、

バリボさんの場合はタイトル「ANTI-HERO'S」(=アンチヒーローの〔もの〕)、

三代目さんは「RAISE THE FLAG」(=〔その〕旗を掲げろ)、

どちらもタイトルから想像できるように、「これからやってやんよ~!!ぶいぶい!!」って曲なんですね。

三代目さんに至ってははっきりと「革命」がどうのこうの、と歌っている。

以下、歌詞引用。

 

I'm gonna be the ANTI-HERO 心燃やしてFire up

譲れぬ意志貫きLouder 道なき道の先へRide out

I'm gonna be the ANTI-HERO 答えは胸の中

I don't give a damn about the fame 世界中敵にしてもGo your way

/BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBEANTI-HERO'S」

 

新たな旅立ちへの夜明けI'll show you 戦う者たちのシュプレヒコール

We stand strong 雑じり気ない鼓動重ね合って

踏み鳴らせ 沸き上がったGroove

まだ名もなき革命へのMove

Now follow me Raise up 旗を掲げろ 真実の歌響かせろ

Stand up everybody 今すぐKnock it down

スピード上げて (Beyond the future)

ボリューム上げて (Beyond the future)

その手を上げて  (Beyond the future)

夢の先へとBeyond the future

/三代目J SOUL BROTHERS「RAISE THE FLAG」

 

・・・

両者グループは違えど、歌詞の内容はとにかく未来を向いていて、

その未来に対して決して楽観はしておらず、不安を抱いているけれども(=短調)

でも音楽は、その短調の不安・憂鬱に付き合いながら、最後の決別の際には、明るい未来の片鱗、希望が叶うことの予兆を、見せてくれる(=長調化)

断定のない希望の確実さ、というと不可解ですが、

「断定しないけれども断定する。」という矛盾した確実性の表現さえ、言葉のない音楽にはできるぞ、ということを、非常に明確に表しているように思います。

 

しかし何というか、三代目さんは今やベテランで、バリボさんはピチピチの若手の方々。かなり心境は違っているはずなのですが、

他のグループ、例えばTHE RAMPAGEさんやGENERATIONSさんを見ても、こういった反骨の曲、さらには短調で、短調のまま終わるのだけど、時折長調の片鱗を見せる、といった曲はもう、いっっぱいあるというか、全部そうw。と言っても過言でないくらいあって、、

おそらくこれはLDHのひとつの今のカラーなのじゃないかな、と思われます。

00年代のEXILEさんの曲は、もっと雰囲気やロマンチックさ重視で、

例えばテンションコード(前述の通り特殊な和音のこと。これを使うとオシャレな音になります)の使用も、王道の使い道というか、

正に「オシャレな雰囲気作り」として使っている。これはジャニーズとそんなに変わらないです(方向性は違っても)。

 

でも今のLDHは、このテンションコードを、雰囲気作りというよりは、「救済のメタファー」のように使っているように感じます。

テンションコードだったり、調性を一時的に崩すあらゆる手法が、鬱鬱とした世界観に差し込む光を表現するように、散りばめられている。

実際、冒頭に触れた「ピカルディ終止」というのも、中世の教会音楽において「忌まわしきもの、悪をあらわすもの」とみなされていた短調の音楽を、

最後に神が救ってくれるように祈りを込めた手法、という形で、多用されたものなんですね。

 

その神秘性が薄まった、いわゆる「オシャレさ」として我々は普段「短調長調化」を聴いているわけですけど、

LDHはむしろその古き良き神秘性を頼りに曲を作っている、という印象を持ちます。

 こういう音楽の作り方は私はとても好き。

誠実だなあ、としみじみ好感を抱いてしまいます。

制作する方々が、「耳で聴く」音楽の力をどこかで強く信じて、尊重していないと、こういったアレンジは実際にパッケージにはなりにくいと感じます。ラストの一音なんて、歌も乗っていないし、聴きそびれてもおかしくない箇所だし。

やはりダンスがルーツの方々だから、音楽が常に死活問題、なのだと思います。音楽が秀でてないと、身体は動きませんよね。

そういう意味で、LDHは音楽の力を未だどこかで信じていて、音楽を「聴こう」と思っているし、「聴いてほしい」と思っている。ストリートから一大音楽事務所へと成長した方々のモチベが詰まっていると感じます。やはり元が野球チームだった某事務所とはシリアスさが違うw。。

革命の成功を祈り、神の救済を祈り、何よりも彼ら自身の希望ために、音楽を鳴らしているのかも。

 

そんなことを考えたりなどしつつ、本日はこれにて。

わかりにくくなっちゃったナ~。